1日目
俺の名前はロディア・レイモーン。歳は13の男。マジクル・タウンの居住区出身で、学校にも通っていた。
俺は、俺が俺のままで在り続けるために、俺という人間が自分自身を保ち続けている証として、この日記を綴ろうと思う。もしこの日記が途切れた時は、この日記が俺という人間の墓標になるだろう。そうはならないことを祈っているが、正直この先どうなるかは自分でもよくわからない。
俺はつい先ほどまで、魔法の力に目覚めていなかった。
この世界の人間が、生まれ持つ2つの魔法。そのどちらも目覚めていなかったんだ。それが今さっき、覚醒した。
俺の魔法の1つは、暴食。生き物の血肉を食うことで、魔力を自分のものにしてしまうというものだった。どういう訳かその力は暴走し、俺はかけがえのない家族を……父さんと母さんと、双子の弟を、食ってしまった。
幸い3人共に一命はとりとめたが、重傷だった。
俺が力を扱えないほどに弱かったから、みんなを傷付けた。俺が弱かったから、家族を傷付けた。ずっと一緒に、幸せに過ごしたかったのに、父さんと母さんを、弟と2人で幸せにしてあげるって決めたのに、それを俺が壊した。
だから俺は今、家を出て裏路地でこれを書いている。
もう家には戻れない。戻れば、弱い俺のせいでまたみんなを傷付けてしまう。
強くならなければいけない。
みんなを傷付けずに済むように、強くなって、暴食の力をコントロールできるようにならないといけない。
俺の弱さのせいで周りを傷付けるなんて、耐えられない。もう誰も傷付けたくはない。
この日記は、俺が暴食の力に負けない為の誓いであり、暴食に飲まれていないという証だ。この日記が続いている限り、俺は俺のままで在り続ける。
この日記が最後まで続き、誰の目にも触れずに処分される事を心から祈る。
2日目
あのまま裏路地で夜を明かし、屋外で日の出を見た。弟と二人で年越しをした時以来の日の出だったが、またあんな風に晴れやかな気持ちを味わえる日は来るのだろうか。冷たい路地に寝ていたせいで体が冷えきっている。あまり文字は書けそうにない。
マジクル・タウンの外れまで来たが、街の出入口は見張りが居て出られそうにない。どこかにあまり使われていないポータルはないだろうか。そろそろ捜索依頼が出されるだろうし、早く街から離れたい。
今日は街外れの民家に泊めてもらえることになった。俺を家出少年だと思ったらしい。とても親切な人だ。
毛布を貸してくれて暖炉の前に座らせてもらったうえ、ベッドや温かい食べ物まで与えてくれた。やっと手が温まってまともな字が書けるようになった。これもあの人のお陰だ。
弟を誘拐した変態女のような異常者もいれば、こんな風に温かくて優しい人もいる。そんな人たちを俺の弱さで傷付けないようにするために、早く力をつけなくてはいけない。
けれど焦ったところで何が変わるわけでもない。今日の所は早めに寝て、明日に備えようと思う。
食事は充分にとったはずなのに、なぜか腹が減っているような感覚になってきた。疲れすぎて感覚がおかしくなっているのだろうか。早く寝てしまわないと。
3日目
やってしまった。
またやってしまった。
昨日 泊めてくれたあの人を、俺は食ってしまった。
また抑えられなかった。夜中に目が覚めて、腹が減って、何も分からなくなって、無我夢中で、気が付いたら目の前に血塗れになったあの人が倒れていた。身体に穴が空いていて、そこに収まっているべきだった心臓は、俺の口の中にあった。飲み込んでしまった。飲み込んだその瞬間に我に返った。
魔力を美味いと感じる自分が嫌だ。
人の肉は不味い。
食べたくない。傷付けたくない。
4日目
昨日、食い殺してしまった人の家族に捕まって、納屋に閉じ込められた。暴力を受けたし、傷も付けられた。俺のことを通報すると言っていた。
そうされて当然だ。
俺は罪の無い人を食い殺してしまったんだ。俺の弱さのせいで、親切なあの人を殺してしまった。
彼らの憎しみは当たり前の感情だ。彼らにはそうする義務がある。
体を縛る縄は頑丈で、ちょっとやそっとじゃ外れそうにない。その方が俺も安心できた。暴食の力は、魔法の力だ。これ以上被害を出さない為にも、納屋にいる間はなるべく魔力をつけることに集中しようと思う。
縛られた手では文字を書くのもままならない。
また腹が減ってきた。充分食べた筈なのに
5日目
まだ納屋の中。
飲まず食わずで目の前が霞む。
意識がおぼつかない。
腹が減った。
いまは何時だろう。
腹が減った
腹が減った
腹が減った
腹が減った
ダメだ、もっと力をつけないと
もっともっと、たくさん力が必要だ
6日目
両手が あかい
口もあかい 体も まっかだ
目の前に 死体がころがっている
あの人の 家族
また、俺が食ったのか?食べたくもないのに
どうしていつもこうなってしまうんだろう
魔力をつけようとしていたし、実際それはできていたと思う
一日中ずっと集中して力をつけていた時もあったくらいだ
あれじゃたりなかったのか?
もっと力をつけないとダメなのか?
いそがないとまた腹がへってしまう
はやく強くならないと もっと強くならないと
力があればこんなことにならなくてすむんだ 力があれば もっと強ければ
腹が減った
Ш日目
痛い あつい 痛い
痛い 苦しい
腕を折られた
あちこち切られた
目が霞む
手が震える
だけど 俺が食った人々はもっと痛かった。俺が食った人々はもっと苦しかった
こうなって当たり前だ
悪いのは、自分の力に振り回されて周りを傷付けてしまう、弱い俺だ
まだ足りない
もっと強くならなければ
もっともっと強く こんなんじゃまだ足りない
魔力を高めるだけじゃダメだ あれじゃ少しずつしか強くなれない
ほかに良い方法はないだろうか
俺の顔を描いたポスターがそこかしこにあった
そういえば裏路地ばかり歩いている気がする 浮浪者達にもすっかり覚えられてしまった
最後に表通りを歩いたのはいつだったか
〈〇日目
必死で魔力を高めていたら、いつの間にか二つ目の魔法に目覚めていた
人間の代わりに食べていた魔物のうち一匹、命乞いをしてきたちっぽけな子どもの竜がなぜか俺の意のままに使役できるようになっていた
竜を好きな場所に召喚し、戦わせることができた
死にかけだったそいつは結局すぐに死んでしまって、その心臓は俺の胃の中だ
昔は魔物を殺して食べるごとに手を合わせていたが、そんな習慣もなくなってしまった
時間の無駄だ それより力がほしい
どうやらこれは竜召喚の魔法らしい 竜は強いものが多いから、その心臓から得られる力も上質なものばかりだ
その辺の竜を使役すれば、竜を食うのももっと簡単になるかもしれないな
そのためにはまず、この力のことをもっとよく知る必要がある
ああ、時間が足りない
もっと力がほしい
もっと食いたい
〈¶日目
顔をかくしてとある家にしのびこみ、おいてあったポータルを使わせてもらった
あれからいろいろやってみても少しずつしか強くなれない
もっともっと力をつけるまで、なるべく人に会わないほうがいいと思った
たどりついた先は、マグテインの外れ サンドランドにほど近い場所だった
マントや食料はできるだけ持ってきたつもりだが、この気候ではいつまでもつかわからない
ディスプレトあたりまでたどりつくか、暑さをしのぐところを見つけるかしなくては
あまり体力をつかいたくない 今日は書くのはここまでにしよう
§ζ日目
マグテインの辺境で、竜の卵が巣からはぐれていた
種類にもよるが、竜は火山の近くに巣を作ることが多い ほかの魔物か人間に盗まれでもして、忘れられていったのだろうか
気まぐれで卵をひろってあたためると、あかい竜がうまれた
まさかうまれるとは思っていなかった 幼体ではマグテインで生きられるかわからないが、自然は自然のままにしておいたほうがいいかもしれない
自然にかえそう なるべく魔物が少ないところに放してやるか
ついてきた 何度かえしてもついてきた
俺を親かなにかだと思っているんだろうか 勘違いもいいところだ
仕方ないからコイツも連れていくことにして、召喚契約をした
コイツの名前はどうしようか
迷いに迷って、竜の名前はグリシナにした たしか藤の名前だ
グリシナは俺にだけなつく 他のやつには触れようともしない
竜はプライドが高いというから、グリシナもそういう種族なんだろうか
コイツが居れば、竜をもっと食えるようになるだろう
そうすればもっと沢山の力が手に入る
試しに目に付いた竜を誘き出して食ってやろうか グリシナの力も見てみたい
ζΙ日目
成功だった グリシナが召喚契約をしていることに気が付かず、竜はまんまと誘き出されてきた
たいていの場合はグリシナにやらせる 竜召喚の力が便利なのか、俺とグリシナの相性がいいだけなのか、とにかく竜召喚によってグリシナと繋がっていると多くの恩恵を得られた
グリシナの五感を共有することもできるし、グリシナが心臓や血肉を食って魔力を俺に移し、そのまま俺のものにすることもできる
竜相手にもかなり立ち回れるようになってきた
そういえば前よりも、戦闘中の視野が広がった気がする
いい調子だ このままもっともっと、際限のない力と強さがほしい
けれどマグテインやサンドランドの魔物はあらかた食い尽くしてしまった
そろそろギルドにも目を付けられるかもしれない 場所を移そう
Λδ日目
誤算だった 移動した先のディスプレトにギルドの人間がいた
俺を見つけるとすぐに戦闘をしかけてきた
やはりギルドに目を付けられていたようで、ヤツらは俺のことを「狩場荒らし」などと呼んでいた
けれど竜と比べると、ヤツらはどうにも弱かった
竜の堅い皮膚と比べて、人間の身体のなんと脆いことか
いちいち相手をせずに心臓をぶち抜いてしまった方が早い気がして、無意識にそれを実行していた
脈動する心臓の感触が心地好い 魔物とは違った形をした人間の心臓は、ぶちぶちと血管を引きちぎって取り出すと だんだんと鼓動を遅くしていった
ああ、このままではせっかく新鮮な心臓が弱ってしまう
弱ってしまっては魔力を得られない
もったいない たべてしまおう
俺を畏怖するような視線を受けて、やっと我に返った
俺は人の心臓を食っていた 今度は口に含んだ瞬間に我に返ったが、何故だかそのままかみ砕いて飲み込んでしまった
自分がどうしようもなくなっていることに気が付いて、わき目もふらずに泣き叫んだ
何の抵抗もなく人を殺した自分の無意識が怖かった
心臓を吐き出せなかった自分が怖かった
けれど何よりも、人の心臓を、人の血肉を、美味いと感じてしまったことが恐ろしかった
気が付くと周りにいた人間は全て死んでいた 俺が泣いている間に、グリシナが始末したらしい
グリシナが俺よりも大きく成長した身体で俺に寄り添ってきて、翼で俺を覆い隠した
まるで抱き締められているみたいで、ひどく落ち着いた
グリシナは頭の良い竜だ 俺が異常だということにはもう気が付いているんだろう
それでも離れることはないと、望んで俺の傍に居ると、グリシナの眼が雄弁に語っていた
繋がっているから分かる コイツは覚悟をきめている
巻き込んではいけないとわかっていても、振り払うことはできなかった
ЗФ日目
自分が自分でなくなっていくきがする
また人を傷付けた
人の肉の味になれてしまった
うまいと思ってしまった
どんどん道を外れていく
俺はまだ俺のままだろうか
ΞηΓЕ
体中がいたい
またやってしまった
だけど体は満たされている
魔力を食ったからか?
腹を満たしたからか?
あるいはそのどちらもか?
俺はどこまで道を外れていくのだろう
ΨυΓЕ
だれか 俺を
ЭгΓЕ
あいつを 見つけた
間違いない あの時ラクスを誘拐した犯人だ あの顔は間違いない
我を忘れてあいつを追いかけた 裏路地に追い詰めて、ナイフで刺し殺した その後で、食った その時にあいつが死んでいたか生きていたかは覚えていない
ただ殺したかった
ただ食いたかった
俺は今日、本当の意味で道を外れてしまったのだろう
自分から望んで暴食に身を委ねてしまった
今まで何度も周りを傷付け、殺し、食ってしまった その度に傷付けられ、数えきれないほどの凌辱と苦痛を受けた そうされて当たり前だった
だけど今の俺はそれ以下になってしまった 自分から堕ちてしまった
俺はもう戻れない
とうさん
かあさん
ラクス
おれはそっちにもどれない
θЖΓЕ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
もうしたくない
くいたくない
こんな力ほしくなかった
きずつけたくない
くいたくない
ころしたくない
力なんていらない
かぞくとしあわせになりたかった
みんなといたかった
つよさなんていらない
力なんていらない
こんなのいやだ
力なんていらないおれはそんなののぞんでないおれがつよければよかったのにおれがよわかったからおれがつよければ力があればよかったのに力なんていらないほしくないみんなといたいつよければ力があればおれがつよければ力があれば力があればつよければ
УЦΓЕ
こんなことになったのはだれのせいだ?
おれのせいだ おれがよわいからだ
ならつよくなればいい
つよければこんなことにならなかった
つよさがあればいい
つよさがすべて
мКΓЕ
強さが絶対。
強さこそが全て。
何を犠牲にしてでも強さを手に入れなくてはいけない。
たとえ誰を傷付けたとしても、強さこそが絶対だ。
俺は強くなる。
他人を蹴落としてでも、地獄に落としてでも強くなる。
強さこそが絶対。
強さこそが全てだ。
こんなものを書いている時間が惜しい。さっさとグリシナを連れて、獲物を食いに行こう
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こんぬづわ(o・ω・o)零下です。こっちでの小説更新は結構久しぶりな気がします
前にべったーで書いたロディアの日記の完全版ができたのでアップしておきます(o・ω・o)
わりかしダイジェスト気味ですがこんな風に堕ちて行って、最後のページを境に日記を書くこともやめちゃってます(o・ω・o)
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