世界の際と際を渡る、ほんの少しの間。
凡ゆる音が消えるほんの刹那の間が、リインウェルトは好きだった。
一瞬の静寂と暗闇の後、音と光がまるで思い出したかのように溢れかえる。
先へ歩みだす足に、違う温度の風。入り込んだ体に、違う空気の香り。
中空にありながら墜ちていかないのは、その身に育まれ続けている膨大な魔力が水となり、ゆく道を造るから。
まるでそこに段でもあるかのように、彼はゆっくりと降りていく。
彼が足場としている水はまるで器に収まっているかのようにきっちりと薄い直方体の形をとり、彼のさほど大きくもない足をその内に沈ませることもなく表面で受け止めている。
それは時折吹き上げる地上からの風がその表面に薄く波紋を作らなければ、それが水であることを忘れさせるほど完璧な板だった。
音もなく空を下る足取りに合わせ、早朝の空の色にも似た色をした短髪が、上空の風にあおられては靡く。
人であれば耳がある位置にある黒と白の小さな翼も、ひらひらと風を受け流すようにそよいでは、時折小さな小さな羽根を零す。
身に纏う衣服が動きに合わせ、長い裾や袖がふわふわと揺れる。
降り立つべき島は遥か眼下にぽつりと見える。まだ豆粒ほどのサイズでしかないそれまで、
歩いて降りてどれほどかかるのか……それを考えたとき、彼は。
長くてめんどくさい。
そう思った。
端的に、そう思ったので。
水で板を作るのをやめ、そのまま。
びゅお、という風切り音が耳に届いたが、あっという間にそれさえ消える。
重力に従い高速で落下していく体。
風に猛烈に揺さぶられる感覚を、悪くない、とリインウェルトは思った。
人の身であったならとっくに気絶していても不思議ではない、超高度からの紐なしバンジージャンプ。
豆粒大だったその島は、次第に大きさを増して、本来の大きさでもって彼の眼下に広がり始めている。
その島が浮く広大な海。
その海面まではあと数キロ、といった地点。
そろそろいいか。
そんなことを思ったリインウェルトは、自らの背に意識を向ける。
秒にしてひと瞬き。
ふわり、と。
黒白の翼が三対、小さな背より広がった。
強い風にあおられているばかりだった六つの翼は、まるでそれぞれが独立しているかのように複雑な動きで風を適切に処理していく。
海面まで数千メートルの辺りまで落ちたところで、翼は主たるその体を完全に中空に浮き上がらせた。
そのままふわふわと飛んでいくのか、と思えば。
右手の人差し指を、ふい、と。
数千メートル下の海面へ向けてすくい上げるように動かした。
その指の動きに合わせ、海水が中空に楕円形の……まるで大きいクッションのような形を作り始める。
数秒の後、すっかりと完成したそれに、リインウェルトはちょこん、と座る。
ふよりふよりと浮いたそのウォータークッションは、創造者を乗せ数キロ先の小島を目指して動き始める。
その創造者はというと、水特有のひんやりとした感覚にたまらなくなったのか、その上にころりと寝転がってしまった。
彼らはどうしているかなぁ。
そんなことをのほほんと考えながら、彼の体は小島へと揺り連れられていく。
見知った花の精と、見知った赤髪の青年の住まう診療所までは……もうすぐだ。
青い空、白い雲、少し先に見える白い砂浜の上には小さな町が広がる。
ここは本当に、風光明媚ないいところ。
「癒しの小島、とはよく言ったものだ」
一人、聞くものもいない海の上。
小さく呟いた彼はころころと寝返りをうつ。
着く頃には起こしてくれる人が居る。
外敵からは水が勝手に守ってくれる。
適度に雲のある空は時折直射日光を遮り、光を和らげてくれる。
吹いている潮風は穏やかでとても心地いい。
こんなに暖かい日和には、お昼寝するしかあるまい。
彼はそんなことを思うと、ゆっくりと目を閉じたのだった。
はいこんにちは!空宮れむです!
2017年くらいに書いてあった(らしい)のを今やっと書き終わりました……というか真面目にコレを書いていたことさえもすっっっっかり忘れてて……これの結末、どうするつもりだったのかもちょっとわからなかったんですけど、多分交流する前だからマジクル世界に来たときのことでも書きたかったんじゃないかな?と思いこんな感じになりました!
交流というか導入というか、そんな感じのふわっと感です←
ではでは、また何か…つ、次は交流ものを…書きたい、デス!
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