ある晴天の日、エリカ・クロムはとある武器・鍛冶屋を目指しマジクル・タウンへやって来ていた。
「いつ来てもここは賑やかですね・・・」
エリカが向かったのはマジクル・タウンの商業地区のとある一角。
そこは、フリルやリボンがふんだんにあしらわれた服装、1つに束ねた紅の長髪、そして一見少女に見える容貌を持つ彼女にはあまりにも似合わない一帯。
この通りには武器・鍛冶屋が何件もあり、辺りにはいかにも筋肉で動いていますと言う様なゴツイ体格をした者が多く、仕上がったばかりの自慢の武器を手に見せびらかすように歩き回っているような場所だった。
とは言ってもここは魔法と奇跡の街、見た目だけで相手を判断しているうちはまだまだ青いビギナー、どうやら今回立ち寄ったこの通りにはそう言った輩は居ないらしく、特に何の問題も無く目的の店を見つけることができた。
茶色い重厚な木の扉が特徴的な店の前で足を止め、かかっている看板を確かめれば“ラビッツ”と書かれている。
ある兎族の兄妹が切り盛りしている武器・鍛冶屋だ。
「あら?お客様・・・かな?いらっしゃいませ!」
「え、あ、あぁ」
彼女が扉を開ける前に扉は開け放たれ、元気な声が少し上から降ってきた。
声の主は大きな黒目が魅力的な褐色肌とふわふわした髪を持ち、そしてボリュームのある胸元が印象的な兎族と思われる女の子。
エリカは思わず自身に無いボリュームを凝視し「嘆くなかれ、私にもそのうち身に付くはずだ」と言い聞かせながらパッと目線を外した。
店内からは落ち着いた男性の声が聞こえた。
「こらモニカ、お客様が驚いてるじゃないか・・・そこを退きなさい」
「うぇ、ごめんなさいっ・・・あ、どうぞ!入って入って!」
「は、はい・・・」
店内に通され、カウンターに目を向けると優しげな笑顔を浮かべた男性が居た。
先ほどの女の子と良く似た兎族のまだ若い様青年だが、彼が店主で間違いなさそうだ。
彼は鍛冶屋なだけあって、その腕は引き締まっているが戦士とも違うその筋肉の具合で職人であることが良く分る。
「貴方が店主ですね?ここは良い店と聞いて来ました」
「ありがとうございます、ラビッツ店主のアルク・ウェイヴスと申します。常備している武器は店内の物が主ですが、まだ奥にもありますよ。どういった物をご所望ですか?」
ぐるりと店内を見回すと、ビギナー戦士でも扱いやすい武器が各種取り揃えてあり、他にも初めて旅に出る者であれば満足する小物、回復魔法薬の小瓶や魔石を加工した装飾品といった物まで揃っていた。
どうやら主だった売り物は武器だが、簡単な防具から雑貨までも取り揃えている事もあり“良い店”と呼ばれるようだ。
しかし、エリカの探している武器は扱いやすく軽い装備品ではなく、もっと重みと耐久値の高い頑丈な物だった。
「・・・店内には目星の物がありません、もっと耐久値の高く大きな武器はありますか?大剣でもハンマーでも結構ですが、やはり打撃力、いえ耐久値の高い物が最優先です」
「!」
店主のアルクは何か思い当たったらしく、ニッコリ笑うと良い物があると言ってカウンターの奥の扉へと向かった。
「あ、お兄ちゃん手伝おうかー?あのでっかいやつでしょー?」
「大丈夫、作ったのは俺だよ!」
扉越しに元気よく話しかける彼女の名はモニカ・ウェイヴス、モニカと呼んで欲しいと、店主の兄が武器を取りに行っている間に簡単に自己紹介をした。
昼間は基本店に居るが、彼女の職業はハンターらしく、店で扱う素材や個人依頼のあった素材を集めるのが主だった仕事だそうだ。
店で希望の素材が無い場合はそれに合った物を採りに向かうらしく、確かにすぐに動ける軽装備からしてフットワークの軽さがうかがえる。
「へぇ!エリカ・クロムちゃん・・・エリカちゃんって呼ぶね!同い年だからいいよね!あのさ良かったら今度一緒に遊びにいかない!?カフェで新作スイーツ食べに行く友達欲しくってさぁ、どう?甘いの苦手?あ、もし甘いの無理でもアタシ歳の近い友達こっちに居ないから友達になって欲しーな!!」
「えっと…(何だろすっごいぐいぐい来るっ・・・)」
エリカは今日初めて会ったとは思えない懐っこさに驚きつつ、それに押される形で今度カフェへ行く約束を取り付けた頃、アルクが奥の扉から顔を出した。
「お待たせしました、なかなか買い手がつかないもので奥に仕舞い込んで時間がかかりました・・・モニカの相手をしていただいてありがとうございます」
「・・・うへぇ」
兄にジッと見られてモニカのピンっと上を向いていた耳が少し垂れ下がったが、それも一瞬のこと、すぐに元気よく「もう友達になったから問題ないもんね!」と言って室内を跳ね回る様に旋回した。
「私も友人が少ないので・・・元気な女友達ができてありがたいですよ」
アルクは苦笑しつつ甘やかして育てた事を詫びながらも、少し嬉しそうに耳を動かした。
「さて、お客様のご要望に添えれば良いのですが」
カウンターに置かれたのは大きなハンマー型の武器で、男が一人で抱えても手に余る重量の代物だった。
確かにこれであればエリカの言う打撃耐久共に希望が通るだろう。
「触ってみても?」
「どうぞ、一振りするのであれば練習場をお貸ししますよ」
「・・・貴方は驚かないんですね」
「ふふ、俺は師匠から見極めの極意を習っているので・・・見た目に惑わされませんよ。とは言っても・・・貴女の噂話を小耳に挿んでいましたので、今回はその為ですよエリカ・クロムさん」
「!」
アルクは愛しそうに武器に指を滑らせ、我が子を送り出すように慈愛の眼差しを向けて彼女へハンマーの取っ手を握らせた。
小さく華奢な体格だけの印象からすれば、持ち上げることも叶わず床に落とす未来が見えるのだが、彼女は彼が持ち上げるよりも軽々と受け取ってみせた。
「エリカさんには軽いでしょうか?」
「いえ、手にも馴染む感じで丁度良さそうです・・・素材を聞いても?」
「はい。このハンマーはドラグナイト鉱石からの削り出しで、取っ手部分はディプレストの固有種であるビッグディールの角を軸にして合金で固めました。この角は軽く柔軟性があって良くしなり折れません。このドラグナイト鉱石に付随した魔力はありませんが硬度は一級品、中心部分に火竜の鱗を埋め込んであるので火属性の攻撃魔法が使えます。ハンマーそのものを加熱しても問題ありませんし、攻撃の際に爆発させる程度の威力はありますよ」
「・・・風魔法との相性についてはどうでしょうか」
「火との組み合わせについてはミックスしやすくて魔力増大にもなって良さそうです、それに硬度も高いので易々と削れることもないと思います」
自信満々に武器の性能などを説明するアルクは活き活きしていて、モニカとは違った押しの強さを感じるが、しかし物の良さは十分にわかった。
エリカとしては硬度が高いため加工が難しいとされるドラグナイト鉱石を扱える事に好感度が上がり、良い店だと紹介をされた意味をひしひしと感じていた。
初期装備も揃うし玄人向けの拘りある武器にも対応できる理想的な店、それはやはり素材集めの腕も関わるのだろう。
客からの持ち込みや他からの買い付けもするが、殆どはモニカが採取してくるというのだから、なかなかに腕がたつと感心させられる。
「エリカちゃんすっごいねぇ、アタシそんなの持ち上げらんないもん!お兄ちゃんは筋肉マンだからいいけど、エリカちゃんアタシより細いのにね!!すっごいねぇ!!」
「こらモニカ」
「ふふっ、いいですよ・・・私はメインに能力強化を持っているので通常では持ち上げられない物も軽々持てるんですよ」
「そうなの!?どのくらい??大きい岩くらい??」
「・・・そうですねぇ、最近荷物移動の仕事をしましたが、その際はコンテナの移動なんてのもありましたね・・・そのくらいなら軽いので」
「わぁ、エリカちゃん可愛いけどすっごくパワフルだぁ・・・今度何か重い素材採りに行くとき手伝ってよ!あ、ちゃんとお仕事でだからね!!」
「はい、その時は是非。・・・アルクさん、こちらはお幾らですか?」
「お買い上げありがとうございます」
支払いを済ませると、エリカはそのまま今日の所はこれでと言って店を出た。
ただ新しい武器を調達する事だけ考えてやって来たというのに、何故か新しい友人もでき、贔屓にしたいと思える店を見つけられ、何だか得をした気分だと思いながら大きな武器を背負って空を見上げれば、突き抜けるような青空が少し朱色に染まり始めていた。
想定外に長居してしまったらしく、せっかく街まで出たのだし今夜は外食してから帰ろうと飲食店街へ足を向ければ、またそこでモニカとアルクに鉢合わせし、もうこれはカフェへ行く前に夕食を囲むのが先だなと笑い合った。
まぁ友人となったのだから良いではないかと、美味しそうな肉とサラダを囲んで乾杯した。
魔法や奇跡と呼ぶには他愛無い、しかし魔法や奇跡では得られないそんなとある1日の出会いのお話。
Fin
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読んでくれてありがとうございます。
まずは3人が仲良くなったきっかけの小話でした。
さて、以下は補足とか今後の交流ポイントとか。
お店の表には使いやすい武器と雑貨を陳列していて、奥には高価な物や一癖ある客を選ぶ武器などを保管しています。
アルクは売れやすい武器も必要なので作るけど、素材を生かす武器も作りたいので時々売れない武器を生成しちゃう。
でも、武器が人を呼ぶのか何なのか、置いておけばちゃんと売れるみたいなので無駄とは思わずどんどん作ってしまう。
陳列する場所が無いとモニカがぼやくので、そんな時はフラさん所の貸倉庫へ預けたりしてればいいなぁと思ってます。
保管部屋の奥に取出し用の鏡とかあっても良いよね。
モニカは採取するのが仕事のハンターですが、店の事を考えて採取してるだけでそれ以外にも能力は活用できます。
契約魔法で色んな生物などと契約してその恩恵を分けてもらうので、使おうと思えば何でも使える万能さん。
いう事聴かない悪い子は捕縛で縛り上げるよ。
なので、何かのモンスター討伐の際に補助として同行するってのも有り得ます。
だって倒したモンスターの素材欲しいしね。
エリカは基本的に戦士系なうえ、重たい物も軽々の怪力なので護衛から運搬までできる便利な子。
頑張ればコンテナ3つくらいは持ちあがると思う。
お仕事には熱心だし、正義とかそういうのに拘らずに能力を活かすために仕事してるので、ちゃんと依頼があれば最後までお付き合いします。
使う武器は基本的にハンマー系が多いけど、大剣でもOK。
自分の能力で壊れない武器なら実は何でも良い。
武器がどうしても手に入らない時はその辺にある岩とかをトルネード旋回させて投げたりする。
とりあえず簡単なうちの子達の紹介小話でした。
お粗末様でした。
7コメント
2017.11.17 22:43
2017.11.17 12:43
2017.11.17 12:30