モニカのハンティング(1)

「さて、自由時間だぁ!先にマグテイン…いや、簡易ポータルあるからぁ、ディプレスト!!」
モニカはポータルエリアに向かい行き先をディプレストへ設定した。
ディプレストのポータルポイントの最も奥に位置する、ハンターでも慣れない者は行きたがらないエリア。
しかしモニカはディプレストの更に奥の出身、何の躊躇いもなくポイントへと移動し、深く空気を吸い込み数回深呼吸をしてから散歩するように鼻歌まじりに足を進めた。
「はぁーやっぱ空気が美味しいなぁ♪んふふ、やっほぉ元気~?」
モニカはいくらか進んだ先にある大きな木のウロを覗き込み挨拶をした。
勿論大木にではなく、そこには腰を落ち着けて来るのを待っていた精霊が居た。
モニカを気に入って護衛役をしているキツネの精霊シャルル、彼は名前を呼ばれると待ちくたびれたとばかりに伸びをして欠伸を噛み殺しながら、すっと立ち上がった。
「…モニカ、昨日も森まで来ていたのに寄らなかったな?」
「ありゃ!耳が早い~、そんな日もあるんだって!あっ、でもねぇ、昨日はちゃーんと護衛がいたもんね!」
モニカは耳をピョコピョコさせながら鼻息荒くピースをしてみせる。
毎回実兄以上に口うるさく護衛を付けろと言われるが、今回は言われる前に言い切ったので非常に得意げな顔をしている。
そんなモニカをシャルルはジロリと見るが、当の本人は気にした様子もなく話を続けた。
「エリカちゃんのね、あの素晴らしき怪力が必要だったの!沼地付近に居るマウントサイロプスの角が欲しくてねぇ、あの巨体はアタシじゃ縛れても持って帰れないデショ?全身は必要なかったから、そうなると投げ飛ばして寝てもらうに限るでしょ!勿論見事に投げ飛ばしてもらって角もGETだよ!!」
沼地付近に生息している巨大なマウントサイロプスは所謂サイなのだが、サイズが桁違いに大きく、通常は投げ飛ばすという選択肢をとる事は不可能だが、それを可能にする能力を有する者と居たのならまず安全であるのは分る。
珍しく言い負かされたシャルルは唸るように話を切り上げた。
「わかった…、無事なら、良い…」
「んふふ、んじゃぁ今日もヨロシクね」
「あぁ」
テンションの高いモニカについて行けずシャルルは先を促すことにした。
夜も更けて行く時間だと言うのに、元気に歌を歌いながら行進を続けるモニカに苦言を申し立てたくなるが、ここは我慢時だと心の内で言い聞かせ、立派な尻尾をパサパサと振って我慢に徹した。
彼女はプロのハンターなのだから、考えがあっての行動なのだと5曲目の歌を聞きながら後方に注意を向けたその時、ユラリと空気が動いた。
「あー♪♪みぃつけたぁ!!」
モニカは気配を察して嬉しげに後方を振り返り、にんまりと笑みを浮かべた。
本日のお目当て、ディプレスト奥深くに生息している希少種メロディーコングが数対、ぬっと姿を現した。
「わぁアタシの歌で3体も釣れたよ!シャルルどうどう?すごくない??」
「・・・なんでまたこんな奴等を・・・歌い続けないと危険だぞ・・・というか、こいつらと契約できるのか?」
「んふふ~ダイジョブ♪今日はねぇ・・・ホ・バ・ク!歌いながらでもだいじょーぶ~♪♪」
モニカはメロディに乗せてさながらミュージカルの様に話しながらサブ魔法で捕縛用ネットを編み始めた。
シャルルはひとつ溜息をつくと、心得たと自身の魔法能力で草を生やして3体の足を絡め取り動きを鈍らせる。
「ナーイスだよシャルル♪あとちょっと~で、できるからねぇ~♪」
一見すると歌いながらネットを編む彼女はふざけている様に見えるが大真面目、メロディーコングはある特定の周波数に反応する希少種で、その周波数の音を発する道具を使ってもなかなか捕らえることができない。
まして、歌でおびき寄せるとなれば相当の音に特化した能力が必要となる。
モニカは兎のため音に敏感であるけれど、それだけではこんな芸当は成しえない。
そうなると、今回使わなかった契約魔法が関わってくる。
「お前、誰と契約したんだ?今契約魔法を使わないってことは使用中だな?」
「あったり~♪今日のお友達は~フローターシスのお姫様の歌能力と~、スナイスのツララキッズの共鳴と~♪沼地で仲良くなったカエルさんの歌い続けても喉が疲れない安心の潤いをもたらすしっとり能力~♪んふふ~♪」
「3つも・・・」
同時に能力を発動していて、かつ契約魔法も複数と連携しているとなるとかなり負担になるはずだが、モニカは信頼してますと言う様にシャルルににっこり笑みを向けた。
「シャルルが一緒だからだーいじょぶでしょ♪」
「あぁ、任せておけ・・・」
シャルルはこれだからこの娘はとにやりと笑った。
誰でも全幅の信頼を向けられて悪い気はしない。
気に入った娘相手だと尚更で、足止めに徹していたが少しいい恰好を見せてやろうと取っ手おいたある植物の種を使った。
「えぇ~すごぃ綺麗~♪シャルルこれ使っちゃっていいの~!?持って帰って良い~?」
「お前にやるよ」
「やったぁ!初めて見たよぉディプレストの月下美人!!んふふ、メロディーコングが花嫁さんみたい~♪枯れちゃわないようにフラさんの倉庫に入れてもらおうかなぁ~♪あ~保存用のモロク君の瓶持って来ててよかったぁ~♪」
「あぁ、あの倉庫屋か」
「シャルルも知ってるんだぁ!フラさん時々失踪するから面白いよねぇ~♪」
知っているも何も精霊で長寿なシャルルからすれば、倉庫業をする前の彼も知っている。
とは言っても、一方的に見かけていた一人であるだけで接触したりはしていないが。
「さぁ~、でーきたよ♪お待たせしました、本日の特大捕縛ネット完成で~す♪こちらのネット、漁師さん直伝の編み方を採用したので丈夫ですよ~♪」
漁師にも知り合いが居たという新情報に関心しつつシャルルサッとメロディーコングから距離を取ると、バサッとモニカの捕縛ネットが3体を一気に封じ込めた。
丈夫というだけあって千切れるような不安定さも無くしっかりと締め上げて袋に詰め込まれた3体は抵抗も空しくそのまま追加の縄でも縛り上げられた。
モニカのこういう容赦ない縛り上げは惚れ惚れするが、自分はごめんだなといつも思う瞬間だった。 「あー、いっちょあがりぃ!シャルルありがとー、綺麗なお花も嬉しいよ!!今度お兄ちゃんに加工してもらって飾りにするね!!」
「髪留めとか合うかもな」
「いぃねぇそれ!!いやぁ出だしから良いですなぁ~」
「で?このでかい3体はどうするんだ?」
「んっとねぇ・・・あぁ、あったあった手紙鳥、ちょっとフラさんとこまでお願いね」
持って来ていた鞄の中をガサガサと漁り、モニカは魔法の手紙を取り出してトランステック・カンパニーのマッド・フラ宛に飛ばした。
「よし、フラさんが見つかったら指定の鏡で待ち合わせだよ!」
失踪している前提で手紙鳥を飛ばしているあたり、笑えない。
モニカが飛ばした手紙鳥は捜索能力を持たせた洋紙で折られており、鷹が獲物を見つけて捕らえるのと同じようにどこに居ても対象者へ届くと言う便利な魔法グッズの1つだ。
だから、普通の手紙よりも少し値が張る。
「それ、奮発して買った手紙鳥か?」
「・・・へへ、今日はほら、月下美人が枯れる前に倉庫使わなきゃだからね、いーの♪」
すっかり歌関連の契約魔法を解除したモニカはただの鼻歌を歌いながら、指定した大きな池へと足を進め始めた。 勿論、メロディーコング3体をずるずると引きずりながら。
「お前まだ別で契約してたのか・・・」
「えへ、これはエリカちゃんの怪力を5%程度!でも使い慣れてないから湖までしかもたないなぁ~」 扱いなれない上でしかもたった5%で約300kgを引きずれる程度の力を発揮するという異常な怪力能力に、先に聞いていたマウントサイクロプスの投げ飛ばす風景が鮮明に想像できた。
どうにかなぎ倒したのではなく、本当にひょいと持ち上げて投げたのだろう。
まだ会った事は無いが、どんな奴なのかまったく想像がつかない。
「あ、ちなみにエリカちゃんはぁ、アタシよりちっちゃくて可愛い女の子なんだよ!シャルル会ったら惚れちゃうかも~?」
「・・・」
久々にこの魔法があふれる世界でそんな奴が居るのかと驚いたシャルルだった。


どうも翡夜鳥です。
何かさぁ、相変わらずお話書きはじめると楽しくって長くなっちゃうんですよね。
だから今回区切りました。
まだ続くモニカハンティング物語のとりあえず(1)でした。
ここまでで数名チラッと契約と言う形で使わせてもらいましたが、次はまた別の形で数名出てきますよ~(・v・)b
ではでは、続きも近日中にUPできるように頑張りまーす!


Magicle Town

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