おはようございます!白月光菜です!!<m(_ _*)m>
今回の小説は、レン(蓮)ちゃん作の【月の光と竜の影】の直後談です。
良ければ、この↓からどうぞ~^^
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「………お?」
それは、夜もすっかりふけきった頃のことだった。
場所は、癒しの小島のフロシキせんせー院。
気配を感じて振り返ると、そこに見慣れた姿があってムサシノ・フロシキ――――もとい武藏野 四鬼丞(むさしの しきじょう)はきょとりと目をまたたかせた。
真っ赤な長い髪を手ぐしでさっさっとときながら、彼は首をかしげる。
……もう夜も遅いのだが、お客?
「んんん?アレス坊(ボン)やん、どしたんそないなとこ突っ立って」
「……あ、いや」
「???」
其処に立っていたのは、アレスト・クライムだった。
四鬼丞がギルド長を務めるフロシキせんせー院……元は戦闘ギルドなのだが今となってはギルド長が平和主義なこの青年であるがために、医療ギルドと化したその場所―――の、常連である。
いつもハッキリと物を言う彼にしては、やけに歯切れが悪いのが四鬼丞はとても気になった。いつもなら何か反論の一つくらい言ってもいいというのに。
「……………」
アレストはずっとその場に立って動かなかった。
まるで魂が抜けたかのように、ギルドの扉の向こう側――――出入り口に立ったまま。
ふたりが吐く白い吐息が、どちらともなく空にふわっと消えてゆく……
それくらい、寒いというのに。
「…………アレス坊?」
数年前。
最初会った時はまだ、今のように誰かの為にと頑張る余裕もなかった……混血の、獣人の少年。
路銀がつきて、お腹がすいて、フロシキせんせー院に食べ物を盗みに入って。
今や四鬼丞の相方とも言える副ギルド長・シズクノハナサクヤヒメ――――姫に見つかって捕まり、バタバタ暴れていた。
自分が作ったシチューをあげたら、それまで荒れた目をしていたのが、打って変わってキラキラ輝いたのを四鬼丞は覚えている。
こんなにオイシイものははじめてだ、とアレストは言った。ラクスが作るものに比べたら、ぜんぜん、まだ覚えたての料理やったんになあ、と四鬼丞はよく思い返しては苦笑する。
それからというものアレストは、仕事で怪我するたびに何やかんやと言って四鬼丞と姫が此処に引っ張ってくるようになったからか、ちょくちょく顔を出すようになって。
――――たまに、みんなで一緒にシチューを食べる。
そんな、ささやかな…………たあいもない関係だ。
あの頃の小さな彼に戻ってしまったかのように、ぼんやりとした目。
どことなくおぼつかない、足取り。
むしろあの頃はまだ、荒れていても目には光があったからマシなのではないかと、そう思ってしまうくらい今のアレストはアレストらしくなかった。
「………アレス坊?」
また声をかけるが、返事がなくて四鬼丞は困ってしまう。
(う~~~~ん……参ったな~~~~~……)
四鬼丞にはいったいどうしたのかまったく見当がつかない。が、しかしそれより四鬼丞は先に自分に出来ることをしようと思った。
四鬼丞は元は別世界で育った、この世界にはあまりに似つかわしくない医者である。
だがこの魔法と奇跡の世界も、四鬼丞が育った別世界と同じで四季がある。今の時期は冬。……とても寒い。
すごく寒い夜だというのに、アレストが防寒着を着ていないのがとても気にかかったのだ。いつもだったらストールの一つくらい着けているだろうに。
ひょっこりと、四鬼丞はアレストの方へと足を踏み出し、扉の外へと出た。
「あーれーすーぼーんっ?」
「……え?」
「ほれほれー、寒いやろー?そんな格好やとカゼ引いてまうでー?」
「あ……」
ぽう、と目の前に小さな火の玉が浮かんで、アレストは目をぱちくりとさせた。
……ほんのり、ふたりの周囲があったかくなる。
「へへー、俺は魔法はまだまだ得意やないけどこんくらいならイケるんやで?」
「……オマエ」
「あー、さてはアレス坊~、またでぃぷれすと行っとったな~?いくらアレス坊の体が頑丈でも、あんまり冷やしたら体に毒やで?」
「……また医者ぶって」
「いやいちおー医者ですけど」
アレストの目の前で、アレストの白銀の髪をなでながらやわらかに笑う四鬼丞。
…………アレストの視界一杯に、それは広がっている。
火の玉のだんぼーだんぼー♪といつものように……こう、少しだけ困ったように笑む目の前の青年は、とてもあたたかかった。
正直目の前にともされた、火の玉なんかよりずっとだ。
指先にともった、四鬼丞の小さな炎。
魔法を使うのが下手なこの青年は、今にもその炎を消してしまいそうだった。
でも、下手でもいいと、思った。
それよりもっと大切なことが、ある気がした。
この男は別世界の人間で、魔法が使えるようになったのはこの世界に来てからなのだとアレストは聞いている。
何でだろう、この男が【炎】の魔法を使えるようになった理由が、今、何となくアレストには分かった気がした。きっと、心が、あったかいからなんだ。
――――シードラゴン様に出会った少し後に出会った、『おひとよし』。
(…………はじめて会った時から、こいつはいつもこうだな)
四鬼丞は、アレストの『異形』と言われた姿を受け入れてくれたふたり目の人だった。
この世界に来た時から、あまりの文化の違いのせいで何を見ても驚きの連続で、今更アレストの姿を見ても――――みんなと同じじゃないか、とやさしく笑った、あの日の四鬼丞の笑顔をアレストは忘れたことはなかった。
作ってくれた、こゆいシチューの味。
向けてくれたへっぽこでもたしかな、真心。
くやしいけど、それはぜんぶ、本物だったから。
こいつはいつも。
「………オマエは」
ぽかぽかだ。
「…………『オマエは、あったかいな』」
「へ?何かゆーたか?」
あまりにもすっとぼけた返事が返って来て、アレストは深くため息を吐く。
前言撤回して、「ぽかぽか」を「ぽけぽけ」に変えてやろうか。
「ぼくは二度は言わないぞ」
「えー、何やそれー。あっちょっとそのため息何!そんな意地悪こかんと言うてえなー」
「うるさい」
「ぷすー。まあええけどなー」
(何や知らんけど、アレス坊いつもの調子んなってきたしなあ)
さっきまでぼんやりするばかりだったが、声にはやっといつもの調子が戻って来たようだ。
それでもまだいつもより気が抜けている感じがして四鬼丞は心配だったが、いかんせんアレストが何も言わないものだから、どうしたものかというところだった。
ニンゲンそれぞれ事情もあるしなー?と思ってしまうものだから何ともかんとも。
うーん、ケガや病気だけやのうて、こういう時にも役立てるのが一番なんやけどなー?と、四鬼丞が腕を組んでうんうんうなっているのを、アレストはじっと見つめていた。
(………『ヒカリ』……あの女からは……)
救いを与えてくれるような、安らぎにも似た優しさを感じた気がした。
あの底が見えない、黒の瞳。
月明かりでなお、はっきりと瞳のりんかくが分かったからだろうか?
吸い込まれてしまって戻って来れなくなりそうな―――――
『黒』。
思い出して一瞬、別に何かされた訳でもなかったのに震えが来た気がして、また目の前の青年に視線を戻す。一歩一歩彼に近づいて、アレストは小さく口を開いた。
「……おい」
「うんっっでいだだだだだだだちょっみっみみっ!ぴぁっみみっ!!いたっ耳っ!!!!ひっぱんなってひえっしかもツメ刺さっていだいぎぇぇぇっでいでででででぇっ!!!!」
「うるさい」
「そーさせてんのは誰やっちゅーねーーーーーーーーーんっっっ」
ぐいぐいと強く耳を引っ張りながら振り向かされて、四鬼丞はバタバタと暴れたが、なかなか離してくれないものだから更にバタバタ暴れもがく。そんな四鬼丞に構うことなく、アレストは彼の顔を覗き込んだ。
「…………黒」
「…………はひ?」
涙目になりながら四鬼丞は首をかしげた。くろ???何のことやら???
疑問が浮かんだが、ふとアレストの朱色の瞳が自分の黒い瞳に向いていることに気づいて、あ、もしかしてこの黒?と思い立つ。
「ああ、うん。確かに俺の目黒いけどそれがどしたん?」
「…………」
アレストは思う。
ヒカリの瞳の黒と、四鬼丞の瞳の黒。
それらは、同じ色だ。
やわらかい感じがするのも同じ。
声の、あったかみも、似ている。
でも。
「…………オマエは、間抜けだな」
「はい!?」
間が悪いの極地か。悪い方の言葉はもらさず聞いてしまう四鬼丞だった。耳を引っ張られた上にいきなり悪口を言われたように聞こえた四鬼丞は、何だか軽くヘコんだ。
「そのうえ、ぽけぽけだ」
「…………えーっとちょっとすいませーん?俺何かしましたっけーアレストはーん?」
「別に何も」
ヘコむどころか、ちょっと悲しくなって参りましたー!と四鬼丞は頭をかかえる。
……頭をかかえたその瞬間になびいたサラサラの長い髪を見て、アレストが少しおだやかな表情をしていたことを、四鬼丞は知らない。
しかしややあってからぱっとそれっきり四鬼丞から手を離すと、アレストはそのまま背を向けてしまう。
もー、何やねんー、と赤くなった自分の耳をさする四鬼丞は、しかしそれでもアレストが思うようにぽけぽけなのか、怒っているような様子はなかった。
四鬼丞の場合は、「怒る」のではない。まるで兄のように、「しかる」のだ。
あんな、返答を間違ってはいけないと思わせる不安につながるような―――――
(あんな完璧……な感じがするのと、こいつのとじゃ大違いだな)
「………あの女のは、拒絶されるのと怒られるのが、“怖い”と思った。
でもオマエには、しかられると思ったら…………ぼくは、“うれしい”」
その呟きは、アレストにも無意識の内にこぼれていた。
だからか小さくて、風に流されて誰にも届かないままになってしまった。
結局アレストは何をしに来たんだろう。
それを知る暇もなくアレストは去ってしまった。いつの間にか炎が消えていた指先を見やってから、四鬼丞は肩をすくめる。
全くこの世界に来てからマイペースな人達に縁があるんやろか、と四鬼丞は思った。
「おや?今のはアレストではなかったか?」
「ああ、姫。せやで。入れ違いになってしもたな」
そこでギルドの中からぴょこっと顔を出した姫に、四鬼丞は顔を上げた。
扉の向こう側からぴょこ!と飛び出したピンクの髪と、つぶらな青い瞳の可愛らしい顔に四鬼丞はにこーっと笑む。
「それは残念じゃな。ラクスが夜食にシチューを作ってくれたのじゃがのう。ほれ、この後ギルドメンバーで飲み明かす約束をしておったろ?」
「あれま」
「あやつ、シチューが好きであろ?また今度の機会があれば良いのじゃが」
「ま、しゃーないて。アレス坊って自分の魔法と同じでせっかちやからなあ。まーたさっと帰ってしもてからに」
まあええか、といつものように困った風に笑った四鬼丞はギルドの奥から手招いているメンバーに「おー♪」と手をふりふりしてから、またギルドの中に顔を引っ込めた姫の後を追って、ギルドの中へと戻って行った。
(最後に見たアレス坊の目、もうぼんやりしとらへんかったな。
…………良かった)
*** *** ***
白月が伝えたいことが伝わればいいのですが!!
/(^o^)\←※感覚&ニュアンス勝負の白月さん。
という訳で、今回のお話はこれにておしまいです。
アレスが何をしに来たのか伝わるかが一番心配_(:3」∠)_!(笑)←
同じ『優しい』でも、受ける印象や感覚というものはとても変わって来るものですよね!
果たして、『怖い』と『嬉しい』は、どちらの感情の方が勝つんでしょうか?
なんて思ったから、『黒同士の優しさ』を衝動的に書きたくなって今に至ります。
朝起きて一気に書きました!(レンちゃんのお陰です!有り難う!!<m(_ _*)m>)
あと、アレスの好物がシチューなのはここから来ています!というお話でもあるかな!^^
ムサシノ・フロシキせんせーとアレスト・クライムはこういう関係です。兄と弟のような。
※【あなたの翼も綺麗なのに】でアレスが言っていた「あのおひとよし」はせんせーのこと。
ではでは、ここまで読んで下さり有り難う御座いました!<m(_ _*)m>
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