【小説】月の光と竜の影

連投しまくってごめんね!
このあとは暫くチャージ期間 兼 構想ネリネリ期間に入るので
みなさまドシドシupしてネタのネタください!!


ヒカル/ヒカリが動き出したおはなし。
(ダダンダンダダン)


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ふぅ、と吐いた白い息は、
やけに明るい月明かりに照らされ、星空へと溶け込んでいった。

肌に触れる風の冷たさで、冬が近いことを感じる。

ディプレストの丘、大木の枝に止まった
大きな鳥のような、竜のような影。

アレスト・クライムは
腰に巻いていた防寒用のストールを肩から羽織ると、
幹にもたれかかり、足を投げ出すようにして夜空を見上げた。

「…なにをしているんだ、ぼくは」

マジクル・タウンの"内側"は 魔法省の魔法の元、平和ではあるが
一歩街の外に出れば、無法地帯と化した地域も多い。

夜が長くなると、犯罪も多くなる。
見回りの時間も おのずと長くなる時期だ。

今日は夕方から飛び回っていたが、
幸というべきか不幸というべきか、特に犯罪に出会うこともなかった。


月が高いところまで上がっている。
もうすぐ、日付の変わる時刻というところだろうか。

「…行くか」

少し休憩しようと、ここへ来た。

…そう、ちょっと、休憩していただけだ。

あのお星様バカを待っているわけじゃない。

待ち合わせをしているでもないし。


そう、帰ろうとした時
足元で揺れる、白いカーテンのようなものが視界に入った。

身を乗り出すようにして地面を見下ろすと、それは裾の長い女のものの服だと気付いた。

……あの女ではない。
幼い女の子だ。

「誰だ」

暗闇にまぎれて、声をかける。
少女は声の主を探すでもなく、数秒の間をおいて、答えた。

「キミこそ、だあれ?」

しまった、と、アレストは微かに眉をしかめた。

"相手の名前を尋ねる時は、自分から名乗るのがマナーですよ"
と、あのお方が教えてくれたというのに。

夜中だからと言って、警戒をしすぎていた。
相手は悪党でも賞金首でもない、幼い女の子だ。

「ぼくは…アレスト」
「アレスト。そう。」

返事をすると、少女は
間も開けず、その名を繰り返した。

耳から入って心臓まで浸み込むような、柔らかい声。

名前を呼ばれただけなのに、なぜか、両腕の中に抱きしめられたような温かさを感じる。

「…お前…」

身を起こして、足元で揺れる白い影を追う。

白い…スカート…いや、ワンピース、というものだろうか。
そんな薄着で、いったい何処から現れたのか。

「こんなところで、何をしている」
「キミは、なにをしているの?」
「ぼくは…別に…見回りだ。あと星を…いや、見回りだ!」
「見回り。そう。」

そのまま、踊るように…しかしゆっくりと 木の周りを歩き続ける。

何かを探しているのだろうか。

「……ふん」

どうせ時間はあるし、手伝ってやらないこともない。

枝を蹴って、ストン、と地面に降り立つと
翼が起こした風が、あたりの草を揺らす。

「……?」

どことなく感じた違和感を隠すこともなく
アレストは少女の背中を見つめた。



──少女の髪は、なびかない。



…聞いたことがある。
これはもしかして、"幽霊"というものだろうか。

珍しくはあるが、別に特別というわけでもない。
たしか、未練があって、死後もこの世界に居続けている存在…だったか。
それであれば、探し物が見つかったら、消えてしまうのだろうか。

「何かを探してるのか?」
「何かを。」

少女が振り返る。

「……!」

大きな、柔らかい、…吸い込まれそうな黒い瞳。

口元を緩めたその表情は
幽霊と呼ぶには、あまりにも存在感が大きすぎた。

少女は その大きな瞳でアレストを見つめたまま 続ける。

「…探してる。ずっと。」

自分の異端の姿を見て、怯えるか、泣きだすかと覚悟はしていたが
少女の瞳に、驚きや恐怖はなかった。

──怖くないのか?
──何を探している?
──お前は、"何"だ?

頭の中に同時に発生した疑問が口へ伝わる前に
少女はもう一度アレストに背を向け、ゆっくりと歩きながら尋ねた。

「どうして?」
「……は?」
「どうして、"見回り"するの?」

自分の中に留まったままの疑問に 不快さを感じながらも
少女の質問に答えることにする。

「…悪いヤツを、捕まえるために」
「なぜ?」
「…"なぜ"?」

質問の意図が掴めず、同じ言葉を少女に投げ返すが
少女は変わらずゆっくりと、大木の周りを歩き続ける。

…なぜ、悪党を捕まえるか。

金のため? ──違う。

平和のため? ──そうじゃない。

理由は。


「…シードラゴン様のため…」


言葉にしたつもりはなかったが
その言葉は、呟くように唇の隙間から溢れ出ていた。

少女が足を止め、背中を向けたまま繰り返す。

「シードラゴン様、の、ため。」

…そうだ。別に、金もいらないし、世界が平和になんてならなくてもいい。
正直、そんなこと、どうでもいいけれど。

シードラゴン様が、それを善しとするから。
ぼくは、少しでも、あのお方の役に立ちたいんだ。


「…シードラゴン様って、なあに?」
「!?知らないのか…!?」

アレストは バサァ!と翼を広げて飛び上がり、
瞬時に、少女の目の前に降り立った。

その刹那、柄にもなく取り乱してした自分に気づき
驚く様子もなく自分を見つめ返す少女から目を逸らす。

「あ…。いや…」
「おしえて?」
「……」

…シードラゴン様は。

「…シードラゴン様は…海の生き物の、母さん…
 家族がどういうものか教えてくれた方だ。明るい、希望の光。」

そう。
ぼくがそばにいるにはもったいないくらい、とても尊い…。

「ふぅん」

少女は興味無さそうに返事をすると、
とん、とん、と、無重力の空間で跳ぶように丘を降りていく。

「え…おい、待て!」

アレストの呼び声に、少女の脚が、トン、と止まり
振り返ってアレストを見つめる。

「…あ…」

何故呼び止めたのか。
彼女に伝わらなかったシードラゴン様の魅力を語るつもりか?
それに何の意味があるのか。

意地になっている自分に気づき、しかし呼び止めた手前何も言わないわけにもいかず
無意識に視線を落とす。

……と、少女が裸足であることに気づいた。

「…お前、幽霊なのか?」
「違うよ」
「…靴は?」
「ないよ」
「…その恰好で、ここまで来たのか?」
「そうだよ」
「……お前…」

そうだ、と、思い出したように
先程自分の肩にかけた布に手をかける。

「せめてこれを羽織っておけ。」

ふわりと少女の肩から手をまわすように、ストールで包む。

少女は そっと それを支えるように手を添えると
穏やかな表情でアレストを見上げた。

「ありがとう。アレストは優しいね」
「優しい?これを優しいと言うのか?」

気になるだけだ、と、本心のままを伝える。

アレストは優しいよ、と、少女は繰り返した。

言われ慣れてない形容をされると、少々居心地がわるい。
照れとは違うが、それに似た感情を覚えた。

「…その格好じゃあ危ない…家まで送る。どこだ」

すれ違うように丘を下り 先導しようとするが
少女はその場でストールを抱え込んだまま 動かない。

「いえ、は、ないよ」
「……?」

予想し得なかった答えに、少女の真意を確かめるように尋ねる。

「ない、ってどういう意味だ?野宿か?」

少女は表情を変えぬまま、んーん、と、答えた。

「暗いところに、ひとりでいるの。とても寂しいんだよ。」
「家族は。いないのか」
「いないよ。ひとり。」
「…そうか」

アレストには、独りの寂しさが、辛さがわかる。
ただそれは、自分のような異形のものには仕方ないことなのだと思っていた。

"人"である彼女が、暗いところで、独りで、寂しいなど
どうして起こり得るのだろうか。

なんと返して良いのかわからなくて、咄嗟に目を逸らした。
同情や、慣れない慰めの言葉なんて 偉そうなことはできなかった。

その先の言葉を探していると、少女が ゆっくりと 口を開いた。

「だから」

「ボクを助けてくれるひとを 探しているの」


ふ、と、見上げると
彼女はいつの間にか すぐ目の前にいた。

吸い込まれそうな黒い瞳の中
囚われたかのように 自分の姿が映っている。

「アレスト。

きみは

ボクを

助けてくれる?」



まるで自分の全てを、見透かしているようだった。

「…ぼくにできることは、拒まないが」


そう答えるしか、なかった。
いや、むしろ、救われた気がした。

どうして良いかわからない この状況に  道を示してくれた ──そんな気がした。

「アレストは、優しいね」

少女は、先ほどと同じ言葉を繰り返す。
先程よりも、心なしか強い口調で。

自分が正しい答えを選択したのだと、心が安堵した。

「…お前、名前は」
「なまえ」

少女は 一瞬、口元に笑みを浮かべると
足元にあった枝を拾い上げ、地面に字を書いた。




───"光"。




「…ヒカリ、か?」


そう言って顔を上げると、頬が触れそうなほど近くに、少女の顔があったことに気づいた。

一瞬たじろいだが、少女はそのままの距離で、アレストの瞳を見つめながら言う。

「……そうだね。ヒカリ。いいね」

いいね、とは、どういう意味だろう。
その問いを口にしようとしたが
口を開けば、そこから魂が抜き取られてしまうような、不安に似た感覚に襲われて押し黙った。

それなのに、瞳が少女の瞳に吸い込まれるように、視線を離すことができない。

この恐怖に似た不安、不安に似た恐怖は、彼女のものだろうか。
それとも。



「…あ…」



「アレス、ここにいたのか」
「!」

聞きなれた声に、まるで魔法が解けたかのように、体が自由になった。

声の方向へ視線を移すと、制服を身に着けたエルトが小さく手を振っている。

「仕事が長引いて、こんな時間になってしまった。もういないかと思っていたよ」
「いや…」

帰るつもりだったんだが、と、となりの少女に視線を戻す。
が、そこにはもう、少女の姿はなかった。

「…?」
「どうした?」
「…今、ここに、白い服の…」
「?何をいっているんだ。キツネに化かされたのか」
「まさか」


足元を見ると、土に描かれた"光"の文字が 月明かりに照らされてうっすらと浮かび上がっている。

「"ヒカリ"……」


幻ではなかった。

だが、なぜか、そこにいるのに、いないような気がした。

彼女は、助けて欲しいと、言っていた。

だからきっと、また会うことになると
根拠はないが、確信があった。


「…アレス?」
「…見回りがある」
「?…そうか」


少年の瞳は、何かを探すように、空(くう)を切っていた。

エルトは一瞬、手を伸ばしかけ そのまま引く。

折角会えたというのに すぐに発ってしまうことはいささか残念ではある。
ただ、自分も彼も、人と慣れ合うような性質ではない。

アレストの不可解な様子が気になったが、詮索する権利もないだろう。


「じゃあ、また」


エルトの言葉も聞くか聞かずか 翼を広げ飛び去ったアレストの影が、
満月に飲み込まれるように重なって、遠くへと消えて行った。


「…今日はやけに明るいな」


星の光をかき消すほどの月光に目を細めながら、エルトがつぶやいた。




- Fin -


Magicle Town

創作企画 Magicle Town 魔法と奇跡の世界へようこそ さぁ、楽しい魔法交流ライフを始めましょう

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