次がラストの予定。
----------
事務所がこんなにも人であふれることは珍しいが、
どうやら 仕事の依頼に来たというわけではなさそうだ。
かと言って午後のお茶会と言うには、客人のタイプが雑多すぎる。
エド「ええと…」
フ「やぁエドくん、おかえり」
ちょうどいい、ちょっと休憩して行きたまえ、と手を伸ばした先には
香ばしいアップルパイが湯気を上げていた。
フ「色々あってね。これからこのモロクくんの歓迎会が始まるところなのだよ」
エド「はぁ…」
レ「説明はあとあと~♪ほぉら、座って」
姫「ほれ、はよう切り分けぬか」
エリ「…あ、フラさん、小さいお皿はどこに…?」
モ「ねぇねぇ私が切っていいー!?」
状況が呑み込めないエドウィンの意志とは裏腹に、
客人たちはテキパキと準備を進めていく。
基本的に、波にも人にも流されやすい青年は
ただ案内されるままに 席につくことしかできなかった。
モロ「…あっ」
エド「…あっ」
隣にのイスにちょこん、と座る 小さな存在に気づき
お互いが ペコリ と会釈をする。
モロ「ぼく、モロク!」
ああ、この子が。と、エドウィンはひとつ、状況を理解した。
なんやかんやあって、この子を何かに歓迎しているのだと。
エド「私…俺は、エドウィン。エドでいいよ。」
モロ「…;」
よろしく、と伝えると、少年は少々強張った表情を浮かべた。
しまった、と、エドウィンの瞳が揺れる。
エドウィンは決して強面でもなければ、堅固な性格でもないのだが
いかんせん、感情を表情出さない傾向がある。
今も、にこり、と笑顔を見せるべきだったが
この状態で22年間も生きているうえに、小さな子供と接する機会も少ない彼は
その考えには至らなかった。
エド「あ…ええと…」
モロ「あっ!あのね、ちょっと待ってね!」
エド「?」
モロクは足が床に着かない高い椅子から よじよじと降りると
先程サクヤ姫からもらった砂袋を持って、また椅子をよじ登る。
そして閉ざされた袖の上に少量の砂を取ると、エドウィンの方へおずおずと差し出した。
エド「…?」
モロ「あのね、あの…あげるっ」
その言葉と同時に、モロクの袖に乗せられた砂が、薄い光を散らしながら瀬上がりはじめた。
まるで、そこにだけ、小さな竜巻が起きたかのようにサラサラと回転すると
その中心に、綺麗なガラス玉が現れる。
エド「…わぁ…」
みんなが、すごい、と。 ありがとう、と、喜んでくれた魔法。
それは、モロクが唯一知っている、人を喜ばせる方法だった。
目の前の青年が、現れたガラス玉を指先でつまんで拾い上げる。
エド「とても綺麗だね。…ありがとう」
今度は微かに緩んだ口元を見て、モロクの尾がパタパタと揺れた。
エド「ええと…モロクくん?は、ガラスを作れるの?」
モロ「うーんと…砂があればなんでもできるよ!」
エド「…!」
ああ、そういうことか、と、エドウィンの瞳が微かに見開いた。
エド「そっか。助かるよ。トランステク・カンパニーへようこそ、モロクくん」
モロ「…?うん!…?」
フ「……うん?」
モニ「…あっ」
レ「あら!」
エド「…えっ?」
--- つづく ---
0コメント